岩﨑正先生(法学部)

専門分野:刑事訴訟法(刑事手続打切り論)

『法学』

中山竜一
岩波書店 2009年
法学や法学部について「つぶしがきく」と聞いたことがある人は多いのではないだろうか。「つぶしがきく」というのは、法学部に入れば卒業後の進路選択に有利になる(選択肢が多い)、という意味で使われている。たしかに「法」は現実の社会において多くの場面で機能するものであり、「つぶしがきく」というのは間違いではない。そのため、「将来の役に立つかも」という理由で法学部を志望する人もいるかもしれない。しかし他方で、それは学問として価値があるのか、専門学校ではなく大学で学ぶ意味があるのか、という疑問を持つ人もいるかもしれない。そのような疑問や不安を持つ人たちに対して、本書は、「法学を学ぶこと」の意義を分かりやすく、そして読者の知的好奇心を刺激しながら、教えてくれるだろう。法学は社会科学の中でも古い歴史を持つが、単に「役に立つ」という理由で発展してきたわけではない。本書は、「法学入門」としての性質も兼ね備えてるが、一般的な法学入門の書籍の構成とは異なり、法学そのもの、あるいは法学を学ぶことについての魅力が随所にちりばめられている。

『刑事弁護人』

亀石倫子・新田匡央
講談社 2019年
刑事弁護について「犯罪者の味方をしている」、「弁護士がウソを言わせている」などと批判されることは珍しくない。本書は、最高裁が、捜査機関が車両に秘かにGPS端末を取り付ける、いわゆるGPS捜査につき、強制処分であり令状がなければ行うことができないものである(最大判平成29年3月15日刑集71巻3号13頁)とした事件を担当した弁護団の活動をまとめたものである。これを読めば、前記の批判が的外れなものであることが理解できるであろう。法曹の仕事に興味を持つ人だけでなく、警察官などの公安職を志望する学生にもぜひ読んでもらいたい。本書で活躍する弁護団は、刑事弁護の大ベテランというわけではなく、当時は若手と呼ばれる部類である(弁護団の一人は私のロー・スクールの同期でもある。)。彼らが悩みながら成長し事件に取り組む様は、一つの物語のようでもある。彼ら弁護団は、おそらく実務的な嗅覚から「最高裁がプライバシーという代物に正面から言及するはずはない」と考え、「GPS捜査は任意処分である尾行とどこが違うのか」を主張していった。これに対して当時の研究者らは有効な答えを用意できず、弁護団らは研究者の意見書等を用意することをやめ、自らで論理を組み立てていった。ある意味で、法学研究者の反省が迫られる事例でもあった。