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本学大学院修了生の修士論文を元にした学会誌掲載論文がCiNii とJ-STAGEで公開されました
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今春、本学大学院修士課程(経営学専攻)を修了した徐瑞(ジョ・ズイ)さんの修士論文を元に、研究室の先輩で大阪公立大学博士後期課程に進学した倪昳傑(ニ・テッケツ)さんも加筆した学会誌掲載論文が国立国会図書館に所蔵され、学術データベース「CiNii」および「J-STAGE」で公開されました。
「キャッシュレス=常に満足が高い?」単純な図式で語れない
大学院生の研究が学術誌掲載、既存理論を覆す可能性
「後払い」が人の満足度を変える?
一般的な買い物では「先に支払い」が当たり前ですが、レストランやホテルでは「後払い」が採用されています。この違いは、私たちの満足度にどのような影響を与えるのでしょうか。徐さんはこの素朴な疑問に着目し、高級フランス料理店の体験を想定した実験を実施。2,000人規模の調査結果から、支払い方法(現金/カード/スマホ決済)と心理的負担の関係を分析しました。
「支払いの痛み」、実は逆に働く?
心理会計(注1)の既往研究では、「支払いの痛み」が強いほど満足度は下がると考えられてきました。
しかし徐瑞さんらの研究では、満足度が低い場合に、支払いの痛みが強くなるという、原因と結果の因果関係(方向性)が逆転する可能性が示されました。「期待外れの体験をすると“支払ってしまったこと”自体がよりつらく感じる」——そんな日常感覚を、データで裏付けた形です。
キャッシュレスが“常に有利”とは限らない
さらに、この研究の注目すべきは発見は、支払い方法による痛みの変化の違いです。
*クレジットカード(かざしてピッ!):後から請求 → 痛みの変化が大きい
*現金(金額分を揃え、お釣りも確認):その場で支払い → 痛みの変化が小さい
つまり、便利な決済ほど満足度の影響を受けやすい(感応度が高い)可能性が明らかになりました。
また、不満時のSNS評価についても、現金の方が低下が抑えられる(安定的)傾向が示され、「キャッシュレス=常に満足度が高い」という単純な図式では語れないことが分かります。
鍵は「時間差」にあった
—心理に働く“ドップラー効果”—
本研究では、支払いのタイミングと心理の関係に、音の変化で知られるドップラー効果(注2)に似た現象が存在する可能性も示されました。支払いが「近づく」クレジットカード、支払いから「遠ざかる」現金、このような時間的な圧力の感じ方が、心理的な負担の強さを変えている可能性があります。
2,000人データ×高度な分析手法で実証
分析には、楽天インサイトの協力による大規模データを使用。さらに支払いの痛みに影響すると考えられる交絡因子(所得、年齢、生活背景など)を傾向スコア逆確率重み付け(IPTW)(注3)により取り除き、分析の信頼性を検証しました。その結果、結論は一貫しており、研究結果の頑健性が確認されました。
■ 用語解説
(注1):心理会計(メンタルアカウンティング)は、「行動経済学」の一分野で、購買行動における満足(利益)と支払いに伴う心理的負担(損失)との関係を分析対象とします。提唱者のRichard H. Thaler(シカゴ大学)は2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。
(注2):電車で踏切の警報機を通過したり、サイレンを鳴らした救急車が通り過ぎるときに音の高さが変調して感じられる現象をドップラー効果といいますが、心理的な時間圧力の影響によって、支払いの痛みにも似たような効果が存在する可能性が示されました。
(注3):傾向スコア逆確率重み付け(IPTW: Inverse Probability Treatment Weighting)の目的は、実は「支払い方法」ではなく、それに関連する所得、年齢、生活様式など(交絡因子)が、「支払いの痛み」に影響していないかを確認することです。このアイディアは交絡因子の影響により、個々人が各支払い方法を選択する確率(傾向スコア)を計算し、その確率で割ることによって、その人が交絡因子の影響を受けなかった場合の人数に換算するもので、実験結果のデータを統計的に補正(ランダム比較試験化)して分析をやり直します。例えば、Aさんの現金の選択確率が0.2なら、影響がなかった状態では5人(1/0.2)のAさんが実験に参加していたことになります。
研究が示す新たな視点
この研究は、消費者行動、キャッシュレス社会、サービス産業の顧客体験、といった分野に新たな示唆を与えるものです。「いつ、どう支払うか」その違いが、私たちの満足度や評価を左右しているかもしれません。
初年次から学会発表へ
徐瑞さんは消費者行動を心理会計の視点で研究し、入学初年度より基礎的なデータ分析からプレゼンテーションまで修得して学会発表に臨み、研究成果を積上げてきたことが今回の成果につながりました。
(左):修士1年(2024年9月):東海大学(品川キャンパス)での学会発表。
(右):修士2年(2025年9月):大阪経済法科大学(八尾キャンパス)での学会発表。
掲載論文
飲食・宿泊後の支払い方法と顧客満足の変容への影響
-「支払いの痛み」の媒介効果と知覚品質の調整効果に着目して-
-「支払いの痛み」の媒介効果と知覚品質の調整効果に着目して-
『HOSPITALITY』第36巻、2026年3月、pp. 129-139