2022.07.26 トピックス 【国際学部】ロシアのウクライナ侵攻を考える(菅原ゼミ:国際法) 教育・研究 留学・国際交流


 
 
2022年、ロシアによるウクライナ軍事侵攻のニュースは世界を震撼させました。第14回目の菅原ゼミの授業では、ロシアが安全保障理事会に提出した文書から、なぜウクライナに対する軍事行動を至ったのかについてロシアの主張を読み解き、その後国際法の観点から軍事侵攻についてディスカッションを行いました。


 
侵攻が起きたのはドネツク州・ルガンスク州を守るため?


ロシアは、ウクライナに対する特別軍事作戦について、国連憲章51条(自衛権の行使)に基づいて正当化しています。自衛権行使にはさまざまな要件がありますが、そのひとつに武力紛争が発生していることがあります。この点については、ロシアはNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大がロシアとその主権に対する脅威となっていることを主張します。ところで、NATOとはどんな組織なのでしょうか? NATOは加盟国の領土と国民の防衛を最大の責務としており、加盟国のどこか一国が武力攻撃を受けた場合は、全加盟国に対する攻撃とみなして集団的自衛権を行使すること(条約第5条)を規定しているのが特徴です。では、なぜロシアはNATOを警戒するのでしょうか?それは旧東側諸国がロシアからの支配や圧力を逃れて相次ぎNATOに加盟してきた歴史があるからです。ロシア側から見るとNATOが勢力を拡大し、自国を武力制圧するのではないかという脅威があるのです。ウクライナも加盟に対する動きを見せていましたが、これをロシアは「安全保障の脅威」だと捉えました。
また、集団的自衛権の行使の場合には、被害国が攻撃を受けていることを宣言し、援助を要請していることが必要となります。ここに、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスクが大きく関係してきます。ドネツク、ルガンスクは親ロシア派の勢力により2014年に独立を宣言しており、ウクライナ政府との間で内戦になっていました。
2022年2月にロシアは「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立を国家承認しました。そして、ロシアは両国との間で「友好協力相互支援協定」を締結。この協定では「国家主権と領土保全の相互尊重、紛争の平和的解決、経済的圧力による脅威への対応」に基づいて関係を構築することが定められています。ロシアはドンバス地方(ドネツク・ルガンスクを含む)におけるジェノサイド(集団殺害)が起きており、ドネツクとルガンスクの人々をジェノサイド(集団殺害)の被害から守るための特別軍事作戦として、ロシア軍をウクライナに送りました。これが軍事侵攻の始まりなのです。
 





 
国際法の観点から軍事行動は認められる?
なぜ軍事侵攻が起きたのかを学んだ後、1グループ4~5人でディスカッションを行いました。菅原先生が各グループに対しディスカッションにおける考え方を教示することで、さらに議論が深まっていきました。その後、各グループの発表を実施。ロシアのウクライナに対する軍事行動は、ウクライナの国家主権を侵害し、領土保全原則に反する。たとえロシアがその軍事行動を自衛権の行使で正当化するとしても、NATOの東方拡大はロシアにとって(脅威かもしれないが)武力攻撃には当たらないのではないかと問題提起するグループやドネツクやルガンスクは国家として認められていないため、「友好協力相互支援協定」を理由に集団的自衛権の行使を主張することはできないのではないか?という意見もありました。
また、仮にジェノサイド(集団殺害)が行われていたとしてもロシア側の根拠の提示がないことなどが問題であると考えるグループもあり、学生それぞれが国際法の視点で議論を交わしていました。
今回の授業では学生の多くが国際法上軍事侵攻は認められないのではないかという見解に至りました。
各グループの発表を受けての講評は次回のゼミで行われる予定です。
 
 
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菅原ゼミでは様々な国際社会の問題について国際法の観点からグローバル社会の諸課題に関する調査・検討を行い、その過程を通じて主体的に行動する態度を身につけ、協働力とリーダーシップ、創造的思考力の向上を図ることを目的としています。現代における国際社会の情勢を知りたいという方は菅原ゼミへ。
 
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