2022.07.07 トピックス 【経営学部】株式会社阪急阪神百貨店 岩井様『マーケティング視点で見る阪急百貨店の新規事業開発』 キャリア・就職 学生生活 教育・研究


阪急百貨店・阪神百貨店といえば、梅田に本店を置き、売上高は約3,500億円(2021年度)にも上る、日本屈指の百貨店。大阪にお住いの方ならば誰もが知る、地元に愛されている企業です。

今回はそんな百貨店で販売促進や婦人服のバイヤー、マーケティング、新規事業の開発等に携わってきた岩井敦子様から『新規事業の立ち上げ方-企業内立上げの実例紹介-』というテーマで、百貨店での新規事業の立ち上げに関する講義を行っていただきました。
 
新しい事業を立ち上げる際に求められる視点や徹底的に行われるマーケティングについて学んでいきます。「新規事業の立ち上げ」に最も重要なことは何でしょうか?ぜひ、岩井さんの講義から考えてみてください。
 

 
百貨店の変遷
1900年代初頭。服は買うものではなく、作るものでした。呉服店で買った布を自身で縫い、仕立てることが当たり前。そんな中、縫製された服をはじめ、食品や化粧品といった豊富な品揃えで「ワンストップ・ショッピング」を行うことのできるという利便性を高めた「百貨店」が誕生しました。百貨店は大量消費社会に突入する高度経済成長期とともに成長。海外の一流ブランドを誘致するなどし、バブル期には12兆円もの売上を誇っていました。しかしながら、2000年代以降は市場の成熟化や、ショッピングセンターの台頭など、多くの課題に直面しています。

 
新規事業の立ち上げ
コンビニやショッピングセンターなど、競合となる小売店が各地に出店し、百貨店は統廃合が進む厳しい時代に突入します。そんな危機的状況から、お客さんに寄り添ったサービス・事業を行わなければならないと「新規事業の立ち上げ」が決まりました。その担当として抜擢されたのが岩井さんでした。
 
「どうせ新しいビジネスを行うなら、『社会の課題』を解決したい」と考えた岩井さんは、チームメンバーとともに社会課題のブレスト(自由に意見を出し合うこと)を行いました。「原子力発電」や「ハラスメント」「文化保護」「獣害被害」など、様々な社会課題がメンバーから出てきたそうです。岩井さんが学生にも「社会課題」について質問すると「フードロス」や「少子高齢化」といったワードが上がりました。

ブレストで出てきた社会課題と、百貨店が提供可能なサービス、新規事業を行う部署が食品を主に扱う部門であることから「健康・介護」「健康寿命延伸」が事業テーマに決まりました。そこから、活用できるテクノロジーとして今話題の「冷凍技術の向上」や「ネットビジネス」を活用できないかと話が広がっていきます。

 


 
マーケティングリサーチ
岩井さんたちはテーマである「健康」や「介護」業界について調査し、百貨店が参入できそうな事業を探ります。そんな中、一つの企業が見つかりました。高齢者や介護が必要な方に「塩分制限」や「やわらか食」などの冷凍弁当の宅配を行う企業です。このビジネスに、参入の可能性を感じた岩井さんたちは、その企業をさらに調査。見込める売上や利益、人数規模などを見極め、事業として成立するかを探ります。

結果として、利益率などは魅力的な市場であるが、コネクションや地盤形成を考えると模倣できないビジネスモデルであることや、マーケット自体が実はレッドオーシャン(競争の激しい市場)であることがわかったそうです。そこで、もう一つのテーマ「健康寿命の延伸」に注目しました。
 

【大阪府の健康寿命は全国38位】

「健康寿命」とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できるまでの期間を指します。岩井さんたちは大阪府の健康寿命が全国38位だということを知りました。地元大阪の健康寿命を延ばすために多くの病気・生活習慣病の元となる「肥満・メタボリックシンドローム」の改善をめざし、「健康食」の販売を検討したそうです。

岩井さんたちのメンバーは厚生労働省が公開している人口比から、年齢や年収、メタボ率様々な要因を掛け合わせコアターゲットとなる人数を割り出し、そこから、導き出したターゲットとなる数値が、売上を確保するために十分なのか否かを計算していきました。

利益の確保、数値目標、コアターゲットが求める健康食(ニーズ)を分析していき、ついに、具体的な事業コンセプトが出来上がります。最終的に岩井さんたちが作り上げたのは、Good Meal Lab.という、管理栄養士のサポートつきの食事改善プログラム。冷凍ストックし、毎日たべていただくことで「肥満・メタボの解消」にアプローチするというものです。


 
事業の具現化
岩井さんたちがめざす事業を具現化すべく、商品を作ってくれる企業の調査が始まります。多くの企業とアポイントを取り、味や価格、製造ライン、1日当たりの出荷量、企業同士の相性など、多角的な視点から、一緒に事業を行ってくれる会社を選び、漸く商品のサンプルが完成します。

商品の形が出来上がれば、次はどこで、どう売るのかという「販売チャネル」を決めていきます。百貨店の売り場はもちろんのことながら、電話やECサイトの立ち上げも行います。また、Good Meal Lab.と同じく、メタボ・肥満の人を減らしたいと想いをもつ「健康保険組合」にも協力していただき、生活習慣を見直しが必要な特定保健指導の対象者にも販売チャネルを広げていき、岩井さんたちの新規事業がスタートしました。
 
おわりに
新規事業の立ち上げや新商品の開発と聞くと、何となく「アイディアが大切」や、「想像力・発想力が求められるのでは」と考える方もおられるかもしれません。しかし、実社会では、地道な調査・分析、そこから導き出されるニーズと自分たちのビジョン・ビジネスをいかにマッチングさせていくかがとても重要です。

経営学部では、こうしたビジネスの最前線で働く企業人の方々から、リアルなビジネスの手法や考え方を実例とともに学ぶケーススタディにも取り組みます。
興味を持った方は、ぜひ登坂ゼミに来てみてくださいね!
 
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上記は、2022.6.16 【専門演習ⅠA】登坂ゼミの2年生を対象に行われました。