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    授業内容詳細

 法哲学Ⅱ
   Philosophy of Law Ⅱ
授業科目区分
法学部専門教育科目・基礎法系
担当者 金 泰明(教授)
グレード G3
テーマ 人間社会における法の存在理由―思想と理論の展開
キーワード 法哲学の応用コース,多義的な正義概念,映画で学ぶ法哲学,国家と正義,国際社会と正義,生命倫理と正義
開講年度
2017
開講時期
配当年次
3・4
単位数
2

授業の目的及び概要 ここではまず、多義的な正義・権利概念と人権概念の普遍性、また、さまざまな救済思想を学ぶ。そのうえで、以下の現代社会における法と権利に関わる諸問題を考察する。①さまざまな救済思想―義務としての他者救済、欲望としての他者救済、②国家と正義に関する諸問題として死刑制度、マイノリティや性同一性障害への差別、多文化主義など、③国際社会と正義の問題として大量虐殺(ホロコースト、ジェノサイド、民族浄化)や人間の安全保障など、④生命倫理と正義上の問題として臓器移植問題、安楽死と尊厳死、自己決定権、さらに⑤現代的正義の展開として「修復的正義(修復的司法」と「移行期の正義」の概念などである。
履修条件 日々の生活のなかで、新聞やインターネットを通して、現代社会で起こっているさまざまな事件や諸問題に関心を持って読んだり、調べたりしておくこと。
科目の位置づけ(DP・CPとの関連) 「法哲学Ⅱ」は、法哲学の応用コースである。公務員および法曹をめざす学生は本講座を履修するように勧める。本講座では、「法哲学Ⅰ」で学んだ古今の哲学者・思想家たちの法と権利の思想・理論を土台に、現代社会の国内外で生じた論争や話題になっているさまざまな難問を考察し議論する。本講座は、春学期の「法哲学Ⅰ」との連続講座である。したがって、「法哲学Ⅰ」を履修した学生は、必ず本講座を受講しなければならない。
学修の到達目標 現代社会のさまざまなアポリア(難問)の対立点の哲学・原理上の違いを理解することによって、解決に向けた作法を身に着けることができる。
授業の方法 毎回の講義のテーマに沿って、教員がレジュメを作成・配布する。また、授業ではその都度のテーマに関連した映画(DVD等)の一部を上映する。毎回の授業の終わりに、小さなメモ紙に感想や疑問・質問を書いてもらう。それらの内からいくつかを、翌週の授業のはじめにコメントする。
授業外の学修(予習・復習等) 毎回上映する講義テーマに関する映画についての情報を自分なりに調べておくこと。映画がもっとおもしろくなり、講義テーマが深く理解できるようになる。
テキスト・参考書 ●テキスト:毎回プリントを配布する。
●参考書:
①『欲望としての他者救済』金泰明著、NHKブックス(日本放送出版協会)
②『共生社会のための二つの人権論』金泰明著、トランスビュー
成績評価の基準・方法 授業への参加態度を重視する。①評価は平常点(授業への参加・態度など)が5割、授業内容の理解確認(最終授業日の期末試験)が5割。試験は、授業内容の理解度、②自分なりの考えが示されたかを見る。授業を休まず出席するのが肝要。
履修上の注意事項など 毎回配布するプリントをきちんとファイルしておくこと。
この科目の履修にあたって この科目の履修にあたって 毎回の映画を楽しんで観るようにしなさい。きっと現代社会のアポリアを考える上でヒントを得ることができるから。
オフィスアワー 火 12:10~13:00 相談ラウンジ(八尾4階) 授業の質問、英語の基礎、レポート作成支援、キャリアと進路、大学院進学(人文系)、メンタル支援、その他(人間関係、人生の悩みなど)


第1回 ガイダンス、多義的な正義概念

法とは、正義とは何か。法と正義とはいかなる関係にあるか。法と正義の概念を整理しておこう。正義(レヒト)の概念図を訪ねる。正義の概念は多義的である。アリストテレスの正義概念(矯正的正義と配分的正義、交換的正義)から、法実証主義と自然法論、現代的正義の展開として修復的正義(修復的司法)と移行期の正義の概念がある。さらにロールズの『正義論』がある。それはアリストテレス以来の正義の観念を塗り替えてしまったといわれる。

第2回 人権概念の普遍性

映画『アミスタッド』を観る。人権概念はいかにして普遍性を獲得したのか。普遍性の根拠としての原理を西欧近代哲学者の哲学・思想に発見できる。神を根拠にした人権思想から現代の憲法や人権文書における「人間の尊厳」。人間の尊厳は、今や権利や法の根拠となっている。人間の尊厳は古くは聖書にはじまり、中世のピコ・デッラ・ミランドラの思想からカント哲学へと脈々とつづく。さまざまな時代における「人間の尊厳」の思想を訪ね、その意味と存在理由を考える。

第3回 義務としての他者救済

映画『シンドラーのリスト』を観る。なぜ、人は困っている他人を見たら手を差しのべてしまうのか。他者の救済の問題に、誰もが必ず一度は突き当たる。他者の救済は、古くて新しい問題である。ここでは、聖書の隣人愛(善きサマリア人のたとえ)をはじめ、惻隠(そくいん)の情、カントの義務としての救済論、センの社会的コミットメント、フランクルの態度的価値、義務以上の徳行(supererogation)、利他主義、無私の思想など、他者救済を義務とみなす古今東西のさまざまな救済思想を紹介する。

第4回 なぜ、人を殺してはならないか

映画『七人の侍』を観る。「食べる」とは、相手を「無とすること」だ(ヘーゲル)。動物は、生きるために殺す。人間もまた然り。が、「汝、殺すなかれ」と教えられる。しかし、それは平和な社会や仲間内での話。戦場では、兵士は、敵を殺さねばならない。人間は、仲間を守るために他の集団の人間を殺し続けてきた歴史をもつ。では、なぜ、人を殺してはならないか。

第5回 安楽死と尊厳死を考える

映画『高瀬舟』を観る。「苦しむ家族を早く死なせてやりたい」。森鴎外の『高瀬舟』は、慈悲殺(自殺幇助)を描いた。日本では「積極的安楽死」は時期尚早とされる。「安楽死先進国」オランダ、「尊厳死先進国」アメリカ。この問題には、文化・国民性・歴史・医療保険制度など諸要素が影響する。世界で初めて「安楽死の6要件」を示した名古屋高裁判決(1962年、名古屋安楽死事件判決)を紹介し、慈悲殺、安楽死、尊厳死を考える。

第6回 死刑制度を考える

映画『デッドマン・ウォーキング』を観る。先進諸国の多くが国家による死刑制度の廃止に向かうなか、日本では依然として死刑制度が置かれ、つぎつぎに死刑の執行がなされている。死刑制度は存続すべきか廃止すべきか。死刑制度をめぐる賛否両論の根拠・理由を概観し、その背景にある法思想・文化を探る。

第7回 大量虐殺を裁く―ホロコースト、ジェノサイド、民族浄化

映画『夜と霧』を観る。第二次大戦中、ナチス・ドイツのホロコーストによって600万人のユダヤ人が虐殺された。冷戦崩壊後、旧ユーゴでの「民族浄化」で20万人、アフリカ・ルワンダにおけるツチ族とフツ族の民族抗争によって約100万人が虐殺された。ジェノサイド( genocide)=人種・民族・国家・宗教などの構成員の大量抹殺は、国際法上の犯罪(集団殺害罪)である。では、どのようにしてこれを裁き、防ぐことができるのか。

第8回 人権の普遍性と文化相対主義

映画『裸足の1500マイル』を観る。普遍的な人権概念は、文化・宗教・民族・人種・性の違いを問わず、すべての人間が「人間の尊厳」をもち平等の人権を享受できるとする。他方、それぞれの文化・宗教・民族など固有の価値観を尊重する文化相対主義の主張がある。文化相対主義は、「人間の尊厳」をキリスト教に由来する西欧的な価値観にすぎないと主張する。文化の慣習や風習を尊重か、普遍的人権かをめぐる深刻な対立が起こっている。女子の割礼儀礼、イスラム教徒のスカーフ着用問題などを紹介し、人権の普遍性と文化相対主義を考える。

第9回 学生研究発表大会

学生研究発表大会への参加をもって授業へ出席したこととする。

第10回 文化と正義を考える

映画『パリ20区、僕たちのクラス』を観る。少子化・高齢化、国際化時代における日本社会が直面しているのは、文化的多様性の受容の問題である。ひとつの社会で、さまざまに異なる価値観や文化的アイデンティティをもった「差異ある」人びとやマイノリティ集団の共存を求める思想を多文化主義という。多文化主義と市民的な公共性は、いかにして両立できるのだろうか。

第11回 性と正義を考える

映画『トランス・アメリカ』を観る。昨今、芸能界では、カミングアウトした性同一性障害のタレントが活躍する。タレントだけではない。政治家として活躍する女性(男性)もいる。法や社会は、性に関わる諸問題をどのように扱ってきたのだろうか。性同一性障害の問題に焦点を当てながら、性と正義を考える。

第12回 自己決定権を考える

映画『代理人』を観る。胎児は権利主体か?人工妊娠中絶に関連して、母親の権利と胎児の権利をめぐる論争が絶えない。カトリック教は人工妊娠中絶を禁止する。中絶賛成論は、胎児は母親の身体の一部と主張する(母親の所有権)。反対派は、胎児は人格をもつ権利主体とみなす。米国では、人工妊娠中絶手術を施した医師が、反対派によって射殺された。ここでは、『ある子殺しの女の記録―18世紀ドイツの裁判記録から』や、ドイツにはじまり熊本でも実施されている「赤ちゃんポスト」を紹介し、母親の権利と胎児の権利を議論する。

第13回 環境問題―国家の「犯罪」が見えてくる

映画『グエムル』を観る。今や、環境問題抜きに現代世界や社会の未来は語れない。狂牛病、殺虫剤、フロンガス、アスベスト、薬害など身近な衣食住のなかにも「環境問題」は影を落としている。また、砂漠化、煤煙・大気汚染、酸性雨、黄砂といった環境問題には国境はない。こうした地球的規模の環境問題の原因のなかには、しばしば大企業や政府が「犯人」として見え隠れする。環境問題を通して国家の否定的な役割が浮き彫りなる。それは、「国家的犯罪」というべき姿である。

第14回 臓器移植問題を考える

映画『闇の子どもたち』を観る。臓器移植後進国日本。たくさんの難病の患者が臓器移植を待たされている。なぜ、臓器移植が進まないのか。欧米と違って日本では、「脳死」を人間の死とする考えが根付いていない。何をもって人の「死」とするか。「死」の判定基準とその概念は、単に医学や科学の常識に関わる問題にとどまらない、文化や人生観・宗教観に深く関連する、思想的哲学的な問題といえる。ここでは、臓器移植の現状を概観し、脳死は人格死とする「パーソン論」や「死者の自己決定権」などを紹介する。

第15回 授業の総まとめと確認

授業内容の理解を確認するために、小論文形式で2問を出題してまとめてもらう。